『サルトルとその時代』



サルトルとその時代 ●白井浩司
●本体1800円+税
●264頁 四六判ハードカバー
●2012年9月発売
●ISBN 978-4-86119-198-5

知識人が政治に参加した戦後の世界。サルトルの言葉は熱狂をもって迎えられ、若者たちの生き方さえも変えた。サルトル研究の第一人者が、その生涯をたどり、彼が人々に伝えようとしたことの全貌と彼が生きた時代とを跡付ける。
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サルトルの思想的、哲学的立場に反対の意見をもつ人はきっと少なくないでしょう。しかしサルトルの悪戦苦闘というべきこれまでの仕事が、 超人的といっていいほどの重さをもっていることを否定する人はいないでしょう。(著者の言葉より)


 編集者の言葉

この本を出さなければ、40年の編集者生活を終えられないと思った。学生時代、自分の生き方を変えさせたのは、サルトルの様々な言葉だった。それから長い時が経ち、時代状況もすっかり変わったが、彼の言葉のいくつかは、いまでも自分の考え方の基本のところにしっかりと生き続けていることに、あらためて気づかされるのだ。

アートデイズ編集長 宮島正洋


 目 次

はじめに

1章 特異な生い立ち
 I 祖父に育てられる
  幼くして父を失う/出戻りで苦労した母/服従を知らずに育つ
 II 文学の芽ばえ
  独仏の古典的名著に囲まれて/つぎつぎに物語をつくる

2章 才気走った若者
 I ポール・ニザンとの出会い
  古本屋をあさる母と子/アンリ四世校入学とポール・ニザン/よく似ていた竹馬の友
 II 高等師範学校の秀才たち
  母の再婚と同人雑誌の発行/その後の作品の原型といえる短篇小説/優秀な同期生たち
 III 高等師範学校での型破りな生活
  年下の美女カミーユとの恋/わがままな浮気女/喜劇役者のような一面
  恐るべき三人組とボーヴォワール/全てを創作のために/人を圧倒する知性
  自分以外のなにものにも惑わされず/多くの深い友情にめぐまれて

3章 作家への道
 I ボーヴォワールとの愛
  契約結婚を提案/夫婦以上の愛情関係/好奇心にみちた旅行好き/
  作品の各場面はすべて体験から
 II ふうがわりな行状
  奇癖と恐怖の幻覚症状/幻覚体験も作中人物に/巧みな女装、意表をつくいたずら
  ドイツで留学生の若妻と親密に
 III 狂った関係
  ふうがわりな少女オルガ/少女の唯一の救いボーヴォワール
  ボーヴォワールを嫉妬に狂わせる/サルトルとボーヴォワールの関係に水
 IV 『嘔吐』の完成に向かって
  哲学的コント『真理の伝説』/三転して『嘔吐』となる
  『嘔吐』にボーヴォワールの様々な忠告
 V 作家修業
  修業時代に読んだ作家と作品/カフカ、フォークナーに共感/西部劇まで喜んだ映画好き

4章 サルトルの原点、小説『嘔吐』
 I 〈吐き気〉を呼ぶ「存在」
  踊り上がったサルトルとボーヴォワール/あらゆるものに〈吐き気〉
  〈吐き気〉それは存在そのものであった/すべての存在は偶然であった
 II 「存在」への理解
  〈吐き気〉はどのようにして理解されたか/孤独になりきって事物を直視すること
  孤独を避け〈吐き気〉に目をそむける俗物たち/権利なく、ただ偶然に存在するもの
  〈吐き気〉の到来を遅らせる方法/ロカンタンが書くことを予告した小説
  サルトルの「実存」とはなにか/現象学のフッサールの影響
 III 悲劇的人間像の集約
  サルトルにとっての「自我」と「意識」/新しい角度から照明をあてられた「意識」
  『嘔吐』は現代小説史上の傑作

5章 戦争の始まりと終わり
 I 前線の軍務に服す
  招集されてアルザスへ/軍務の合間に小説を書く/捕虜となって収容所へ
  パージュ神父との幸運な出会い
 II 占領下のパリで
  実りのない孤立の抵抗運動/半年で終わった抵抗運動/サルトルとカミュの出会い
  占領下での自由な生活/サルトルの姿に重なる『蠅』の主人公/変貌する「自由」
  「自由」は実存であり、めざす目的の根拠/『蠅』で描こうとした占領下のフランス
  人間存在は一つの受難──刊行された大著『存在と無』
  人生は一度であり、つねに完成である/傑作戯曲『出口なし』
 III 解放後のパリで
  ドゴール派にも共産党にも同調せず/アメリカ旅行と戯曲『恭しき娼婦』
  ブルジョワジーへの時限爆弾/サルトルの方向転換

6章 戦後の作家活動
 I アンガジュマン文学を具体化する大作
  一つの行為のために待機する男/選ぶ絶対の自由は自分にある
 II 『自由への道』の中断
  新しい小説手法の試 /「自由をいかにすべきか」を知るマチウ
  コミュニストへの怒り/出来あがっていた下書き
 III 文学はどうあるべきか
  否定された写実主義/登場人物を語る作者の位置/生のレアリスム──内的独白
  「大いなる状況の文学」/小説から政治へ

7章 戦後の政治的活動
 I 思弁から実践へ
  十八世紀啓蒙哲学者に親近感/文学的価値よりも「読者への訴え」/なによりも行動と実践
 II 現実のコミュニスムへの失望
  共産党への態度に見る三つの段階/現代のコミュニスムを非難
  『汚れた手』が与える絶望感/スターリン的コミュニスムへの抗議
 III 不毛な政治的活動
  第三の道を求めた民主革命連合(RDR)/RDRの失敗とコミュニストからの総攻撃
  攻撃の火の手は右側からも

8章 新しい出発
 I 戦後の私生活
  アメリカ婦人との恋/ボーヴォワールも激しい恋/一般には受け入れられない恋愛観
 II コミュニストの同伴者
  再び左右から反サルトルの動き/コミュニストの同伴者と公言
 III 新しい時代の内的支柱『悪魔と神』
  神となり、悪魔となろうとした主人公ゲッツ/悪を行なうことが自分の存在理由
  誇大妄想狂で観念論者のゲッツ/「存在感をもちたい」サルトル作品の登場人物たち
  実存主義から見た「善」と「悪」/サルトルの身代わりになったゲッツ

9章 参加〈アンガジュマン〉と孤立──激動の五〇年代
 I 孤立するサルトル──カミュ、メルローらと絶縁
  親友カミュと激しい論争/人は歴史の中に首までつかっている
 II 文学との訣別
  旅行、集会、著述と精力的に活動/「文学なんてくそくらえだ」/共産党こそ中心的存在
  「ぼくは階級闘争の犠牲者で共犯者」
 III 意味深い「ジュネ論」──戦後最大の文芸評論
  十歳でどろぼうにされた私生児/夜盗の専門家で天才詩人/はられたレッテルどおりに生きる
  心の奥底に「自分こそ本物」/自己卑下に徹するジュネ/存在を捨てて虚構に生きる詩人
  神への挑戦であった/ジュネこそ現代人の姿を象徴
 IV 一九五〇年代前期の二つの戯曲
  サルトルと似ている『狂気と天才』の主人公/『聖ジュネ』と同じテーマ
  主人公キーンに投影されたサルトルの孤独/不評だった政治劇『ネクラソフ』
  「わたしを決めるのは他人だ」
 V ハンガリー事件と宿命の孤立
  長大なソ連批判『スターリンの亡霊』/スターリンの独裁は余儀ない迂回
  社会主義への参加者でなければ批判はできない/先覚者がたどる政治的孤立

10章 戦い続けたサルトル
 I 演劇で官憲批判
  『アルトナの幽閉者』を生んだ嘆きと悲しみ/自らを一室に幽閉した男
  歴史へののろいと根元的無罪の主張/フランス兵士の倫理的責任を追及
 II アルジェリア独立戦争とサルトルの〈参加〉
  アルジェリア支援の激しい闘争/生命の危険にさらされながら
  近づく老年を感じつつも……/実存主義的政治参加
 III 実存主義と文学の無力を知る
  実存主義とマルクス主義/マルクス主義への傾斜/独善的マルクス主義とは一線を画す
  ノーベル賞を辞退/自叙伝『言葉』に見る心境/飢えて死にゆく子に文学は無力だ
  アンガージュマン文学の変化
 IV 最後まで戦う
  現代の戦争への批判/晩年のサルトル



 著者プロフィール
沈 才彬

白井浩司(しらい・こうじ)
 1917年東京に生まれる。暁星中学から慶応義塾大学予科に進み、1941年同大学文学部フランス文学科を卒業。戦争中はNHK国際局でフランス語の放送に従事した。戦後、慶応義塾大学講師となり、1960年以来同大学文学部教授。
1983年同大学を退職し、名誉教授。フランスの現代文学を研究し、紹介してきた。1947年、サルトルの『嘔吐』を初めて翻訳刊行。日本でサルトルが注目されるきっかけとなった。1952年からフランスに留学し、サルトルらとの交流が始まる。サルトルの『嘔吐』、『自由への道』、ロブ=グリエの『嫉妬』などの翻訳のほか、『小説の変貌』『入門フランス文学史』などの著書があり、1977年には『アルベール・カミュ、その光と影』を刊行して読売文学賞を受賞した。2004年歿。
 


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