はじめに
1章 特異な生い立ち
I 祖父に育てられる
幼くして父を失う/出戻りで苦労した母/服従を知らずに育つ
II 文学の芽ばえ
独仏の古典的名著に囲まれて/つぎつぎに物語をつくる
2章 才気走った若者
I ポール・ニザンとの出会い
古本屋をあさる母と子/アンリ四世校入学とポール・ニザン/よく似ていた竹馬の友
II 高等師範学校の秀才たち
母の再婚と同人雑誌の発行/その後の作品の原型といえる短篇小説/優秀な同期生たち
III 高等師範学校での型破りな生活
年下の美女カミーユとの恋/わがままな浮気女/喜劇役者のような一面
恐るべき三人組とボーヴォワール/全てを創作のために/人を圧倒する知性
自分以外のなにものにも惑わされず/多くの深い友情にめぐまれて
3章 作家への道
I ボーヴォワールとの愛
契約結婚を提案/夫婦以上の愛情関係/好奇心にみちた旅行好き/
作品の各場面はすべて体験から
II ふうがわりな行状
奇癖と恐怖の幻覚症状/幻覚体験も作中人物に/巧みな女装、意表をつくいたずら
ドイツで留学生の若妻と親密に
III 狂った関係
ふうがわりな少女オルガ/少女の唯一の救いボーヴォワール
ボーヴォワールを嫉妬に狂わせる/サルトルとボーヴォワールの関係に水
IV 『嘔吐』の完成に向かって
哲学的コント『真理の伝説』/三転して『嘔吐』となる
『嘔吐』にボーヴォワールの様々な忠告
V 作家修業
修業時代に読んだ作家と作品/カフカ、フォークナーに共感/西部劇まで喜んだ映画好き
4章 サルトルの原点、小説『嘔吐』
I 〈吐き気〉を呼ぶ「存在」
踊り上がったサルトルとボーヴォワール/あらゆるものに〈吐き気〉
〈吐き気〉それは存在そのものであった/すべての存在は偶然であった
II 「存在」への理解
〈吐き気〉はどのようにして理解されたか/孤独になりきって事物を直視すること
孤独を避け〈吐き気〉に目をそむける俗物たち/権利なく、ただ偶然に存在するもの
〈吐き気〉の到来を遅らせる方法/ロカンタンが書くことを予告した小説
サルトルの「実存」とはなにか/現象学のフッサールの影響
III 悲劇的人間像の集約
サルトルにとっての「自我」と「意識」/新しい角度から照明をあてられた「意識」
『嘔吐』は現代小説史上の傑作
5章 戦争の始まりと終わり
I 前線の軍務に服す
招集されてアルザスへ/軍務の合間に小説を書く/捕虜となって収容所へ
パージュ神父との幸運な出会い
II 占領下のパリで
実りのない孤立の抵抗運動/半年で終わった抵抗運動/サルトルとカミュの出会い
占領下での自由な生活/サルトルの姿に重なる『蠅』の主人公/変貌する「自由」
「自由」は実存であり、めざす目的の根拠/『蠅』で描こうとした占領下のフランス
人間存在は一つの受難──刊行された大著『存在と無』
人生は一度であり、つねに完成である/傑作戯曲『出口なし』
III 解放後のパリで
ドゴール派にも共産党にも同調せず/アメリカ旅行と戯曲『恭しき娼婦』
ブルジョワジーへの時限爆弾/サルトルの方向転換
6章 戦後の作家活動
I アンガジュマン文学を具体化する大作
一つの行為のために待機する男/選ぶ絶対の自由は自分にある
II 『自由への道』の中断
新しい小説手法の試 /「自由をいかにすべきか」を知るマチウ
コミュニストへの怒り/出来あがっていた下書き
III 文学はどうあるべきか
否定された写実主義/登場人物を語る作者の位置/生のレアリスム──内的独白
「大いなる状況の文学」/小説から政治へ
7章 戦後の政治的活動
I 思弁から実践へ
十八世紀啓蒙哲学者に親近感/文学的価値よりも「読者への訴え」/なによりも行動と実践
II 現実のコミュニスムへの失望
共産党への態度に見る三つの段階/現代のコミュニスムを非難
『汚れた手』が与える絶望感/スターリン的コミュニスムへの抗議
III 不毛な政治的活動
第三の道を求めた民主革命連合(RDR)/RDRの失敗とコミュニストからの総攻撃
攻撃の火の手は右側からも
8章 新しい出発
I 戦後の私生活
アメリカ婦人との恋/ボーヴォワールも激しい恋/一般には受け入れられない恋愛観
II コミュニストの同伴者
再び左右から反サルトルの動き/コミュニストの同伴者と公言
III 新しい時代の内的支柱『悪魔と神』
神となり、悪魔となろうとした主人公ゲッツ/悪を行なうことが自分の存在理由
誇大妄想狂で観念論者のゲッツ/「存在感をもちたい」サルトル作品の登場人物たち
実存主義から見た「善」と「悪」/サルトルの身代わりになったゲッツ
9章 参加〈アンガジュマン〉と孤立──激動の五〇年代
I 孤立するサルトル──カミュ、メルローらと絶縁
親友カミュと激しい論争/人は歴史の中に首までつかっている
II 文学との訣別
旅行、集会、著述と精力的に活動/「文学なんてくそくらえだ」/共産党こそ中心的存在
「ぼくは階級闘争の犠牲者で共犯者」
III 意味深い「ジュネ論」──戦後最大の文芸評論
十歳でどろぼうにされた私生児/夜盗の専門家で天才詩人/はられたレッテルどおりに生きる
心の奥底に「自分こそ本物」/自己卑下に徹するジュネ/存在を捨てて虚構に生きる詩人
神への挑戦であった/ジュネこそ現代人の姿を象徴
IV 一九五〇年代前期の二つの戯曲
サルトルと似ている『狂気と天才』の主人公/『聖ジュネ』と同じテーマ
主人公キーンに投影されたサルトルの孤独/不評だった政治劇『ネクラソフ』
「わたしを決めるのは他人だ」
V ハンガリー事件と宿命の孤立
長大なソ連批判『スターリンの亡霊』/スターリンの独裁は余儀ない迂回
社会主義への参加者でなければ批判はできない/先覚者がたどる政治的孤立
10章 戦い続けたサルトル
I 演劇で官憲批判
『アルトナの幽閉者』を生んだ嘆きと悲しみ/自らを一室に幽閉した男
歴史へののろいと根元的無罪の主張/フランス兵士の倫理的責任を追及
II アルジェリア独立戦争とサルトルの〈参加〉
アルジェリア支援の激しい闘争/生命の危険にさらされながら
近づく老年を感じつつも……/実存主義的政治参加
III 実存主義と文学の無力を知る
実存主義とマルクス主義/マルクス主義への傾斜/独善的マルクス主義とは一線を画す
ノーベル賞を辞退/自叙伝『言葉』に見る心境/飢えて死にゆく子に文学は無力だ
アンガージュマン文学の変化
IV 最後まで戦う
現代の戦争への批判/晩年のサルトル
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