CD版 宮本武蔵と「五輪書」全4巻



●講師 奈良本辰也(歴史家)
●本体10000円+税 
CD4枚+「五輪書」原文・解説84頁

 六十余度戦って一度も負けなかった宮本武蔵。その武蔵が最晩年に書き残した勝つための哲学書『五輪書』を、歴史家奈良本辰也先生が噛み砕いて解説。武蔵の真の姿を浮き彫りにする。
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 収録内容

■第一巻 武蔵の生涯■  47分
 武蔵の出生にふれ、13歳の初めての勝負から29歳の佐々木小次郎との果たし合いまでの「闘いの半生」たどり、その時代の剣客の生き方を語る。
■ 第二巻 兵法の道■  53分
 『五輪書』の「地の巻」を読みながら、後半生で完成してゆく武蔵の「兵法の道」を解説。
■第三巻 勝つための哲学■ 46分
 さらに「地の巻」を読み、武蔵の「勝負に勝つための哲学」に迫る。
■第四巻 死を恐れぬ心■  45分
 実戦での戦い方を説いた「火の巻」を解説。武士の本質は「死を恐れぬ心」を持つことに尽きるとする武蔵の考え方から、武士道とは何かを論究する。
【五輪書解説書】
  『五輪書』について──奈良本辰也/ 講演ノート
【五輪書(原文)】
 地の巻/ 水の巻/ 火の巻/ 風の巻/ 空の巻/ 武蔵略年譜

『五輪書』について 奈良本 辰也

 この本、即ち『五輪書』が静かなブームを呼んでいるという。わが国ばかりではなく、アメリカでも広く読まれているということだ。この本の文章は、独特なものである。今の私たちにとっては、難解でさえある。それなのに、これがアメリカでまでブームの余波を及ぼすというのはどうしたことであろうか。もちろん、アメリカ人は、これを分り易くした米訳で読んでいるのだが、それにしても、この本が持つ内容は難解だと言わなければならない。
 この本は儒教にも仏教にも神道にも頼らないで一つの世界を作り上げている。何か一つの思想で割切れるならそれで分り易いのだが、これはその何れでもないから、反って難解となるのである。 この本を貫くものは武蔵という人格そのものである。彼は、決して儒教を否定したのではない。仏教や神道の批判者であったのでもない。寧ろ、熱心なる仏教徒であり神道者であった。だが彼は、そうした既存の思想や宗教から一歩離れて、この本を書いているのだ。十三歳のときから二十八、九歳に至るまでの十五、六年間に勝負をすること六十数度に及んで、負けを知らなかった男の最後の到達として、これを書いているのである。 剣の道は生き残るための勝負の道なのだ。生と死の境目に立ったとき、相手を倒して自らの生存が克ち取られなければならない。いつどのような敵が現われるかも知れないから、一度や二度その勝負に勝ったといっても、すぐに次の勝負に備えるための鍛練を怠ってはならない。死を目前に 見ながら、一歩も後に退くことなく前方に進んでゆく。それが剣の道に生くる者に課せられた掟なのだ。武蔵は、そうした人生を生き抜いてきた男である。そのきびしい道程を経て、その人格を磨き上げてきた。 武蔵の晩年には、そうして得られた人格の境地がいぶし銀のように静かな光を放っていたように思える。彼だからこの本が書けたのである。勝負に人生を賭けて生き残るにはどうしたらよいのか。それを自らの心に問いながら書きつらねたのだ。
 今は価値観が大きく変わろうとしている。戦国時代もそうであった。そうした価値観が大きく変わる時代には、無政府的な現象があらわれる。つまり、激甚なら競争の時期に突入するのだ。競争の場は、勝負の世界である。負けたときは、それで一巻の終りということになる。
 そうだ勝たねばならぬ。武蔵のように勝って勝って最後まで生き存らえなければならない。『五輪書』に教えられるものは、その勝つための哲学だ。そして方法である。

 講師紹介
奈良本 辰也(ならもとたつや)
 歴史家。 1913年山口県生まれ。京都帝大国史科卒。戦後、明治維新史の研究で在野史学のリーダー的存在となり、人間中心の歴史書を次々に発表、高い評価を得た。69年の大学紛争時に立命館大学教授を辞任後は、歴史書のみならず、小説やテレビ出演など多方面で活躍。新渡戸稲造が明治時代に英文で書いた名著『武士道』の翻訳・紹介者でもあり、『二宮尊徳』(岩波書店)、『葉隠』(角川書店)、『宮本武蔵五輪書入門』(徳間書店)などの著者でもある。